「不注意が多い」「忘れ物が多い」——こうした様子から、ADHD(注意欠陥多動性障害)を疑って受診される方は少なくありません。最近ではご本人が大人になってから「自分はADHDではないか」と気づくケースも増えています。
ただ、診察室で丁寧に話を聞いていくと、全然ADHDではないということがしばしばあります。
ADHDとASD、そもそも診断の定義は?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ADHD(注意欠陥多動性障害) | 不注意(集中が続かない、忘れ物が多い)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(順番が待てない、思いつきで行動する)が中心。「やろうと思っているのにできない」という体験 |
| ASD(自閉スペクトラム症) | 社会性・対人関係の困難、コミュニケーションの困難、イマジネーション・こだわりの3つが中心(「ウィングの三つ組」と呼ばれる整理の仕方)。感覚過敏を伴うことも多い |
ADHDとASDは、かなりの割合で合併する
ただし、合併の割合については、論文によって様々な報告があります。
複数のレビューで、ASDの人の50〜70%がADHDの併存診断を受けると報告されています(Hours C, Recasens C, Baleyte JM. Front Psychiatry. 2022 / Al Ghamdi K, AlMusailhi J. Med Arch. 2024)
ただし、別のシステマティックレビュー論文は、ASD児におけるADHDの有病率は2.6%から95.5%という極端に広い幅で報告されています(Eaton C, et al. J Atten Disord. 2023)
その「不注意」は、本当に注意の問題か
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。
ASDによる共同注意の障害や感覚過敏、環境変化への強い不安かもしれない
共同注意とは、相手と同じ対象に注意を向け、関心を共有することです。ASDではこの機能に困難があることが知られています。注意を維持する力そのものではなく、「相手が向けている先に自分も注意を向ける」という部分がうまくいかない結果として、傍から見ると「聞いていない」「上の空」に映ることがあります。
感覚過敏(教室のざわめき、蛍光灯の光、椅子の感触など)への反応や、予定が読めないことへの不安から、そわそわと動いてしまうことがあります。これは衝動性による多動とは、成り立ちが異なります。
PTSDによる「覚醒度と反応性の著しい変化」かもしれない
過去に激しいトラウマ体験を経験した方(PTSD)は「覚醒度と反応性の著しい変化」という症状が見られます。
PTSDの症状であるイライラ感や集中困難、無謀な自己破壊的行動などの症状は、ADHDの注意集中困難や衝動性の高さなどの特性と似ています。
うつ病や不安症による強い不安焦燥、双極性障害による軽躁状態でも似たような症状をきたす事がある
その症状が幼少期から目立っていたのか、発症した精神疾患による症状であるのかについては、これまでの経過を丁寧に診察し、診察を継続して時間経過を踏まえて判断します。
だから、精神科医はなかなか診断を伝えないのです。
甲状腺機能亢進症、アカシジア、抗うつ薬による賦活かもしれない
採血・使用している薬剤の影響なども考えながら判断します。
知的能力が高く、授業が退屈なだけということも
もうひとつ、診察室でしばしば出会うパターンです。
知的能力が高い子どもでは、すでに理解している内容の授業に興味を持てず、結果として立ち歩いたり、別のことを考えたりすることがあります。学校からは「集中力がない」と報告されますが、家では興味のある図鑑や本に何時間でも没頭できる、というギャップが見られます。
学年が上がって内容が難しくなった途端に問題が消える、興味に合った課題を与えると別人のように取り組む——こうしたエピソードは、鑑別上の重要な手がかりになります。
ただし注意が必要なのは、「退屈だから」で片づけてしまうと、本当にADHDやASDがある場合を見逃してしまうという点です。知的能力が高いことと、発達特性があることは両立します。むしろ知的能力の高さが特性を覆い隠し、診断が遅れることもあります。
診断によって治療が変わる
ADHDに対しては、メチルフェニデート徐放錠(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)といったADHD治療薬があります。
ASDに伴う易刺激性(興奮、自傷、他害など)に対しては、日本ではアリピプラゾール(エビリファイ)やリスペリドン(リスパダール)をはじめとした抗精神病薬が用いられる場合があります。
いずれの薬についても、効果や副作用の感じ方には個人差があります。自己判断で量を変えたり中止したりせず、必ず主治医と相談しながら進めてください。

受診時に伝えていただきたいこと
診察では、行動そのものより「どんな場面で、どうなるか」という文脈が重要です。次のような情報があると、鑑別が進みやすくなります。
- どんな場面では集中でき、どんな場面ではできないか(ギャップの有無)
- 幼児期の様子:発語の時期、目線の合いやすさ、ごっこ遊びをしたか
- 音・光・触感などへの過敏さがあるか
- 予定の変更にどう反応するか
- 家庭・学校・習い事など、場面ごとの違い
- 母子手帳、通知表(あれば持参を)
暴れている時の様子だけでなく、落ち着いている普段の様子こそが診断の手がかりになります。この点については精神科医は診察室で何をみているのかの記事で詳しく解説しています。お子さんの癇癪が気になる場合は子どもの癇癪の記事もご覧ください。

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。詳しくは免責事項をご覧ください。

