架空症例
以下は、患者さんのプライバシー保護のため、架空のケースです。
30代の女性。数年前にうつ病と診断され、抗うつ薬による治療を続けていましたが、実は学生時代、一時的に眠らずにバイトに勤しんでいた時期がありました。周囲はバイト戦士だね、と笑っており、当時は自分ではバイトで稼いで、好きな推し活に何万円も課金し、時にはクレカでリボ払いなどもしながら寝ずにバイトをして、朝から大学の講義に出席していた時期がありました。診察ではそれは伝えられず、うつ状態の治療をしていましたが、ある時、抗うつ薬の増量をきっかけに激しく躁状態になり、1日中活動し、数百万円の借金をして起業を試み、心配する家族に一晩中自分の夢を語り続けたことで双極性障害と診断されました。
「うつ病の治療をしているのに波が大きい」と感じる場合は、うつ状態のことだけでなく、過去に調子が良すぎた時期がなかったかを振り返ってみることが、診断を見直す手がかりになることがあります。
「うつ病」の診断を受けて治療を続けている。これまでに何回か「完治した」ような時があった。
「うつ病」の診断を受けて治療を続けている。昔から気分に波があって、周りから心配されていた。
——そんな経験はありませんか。うつ状態の陰に隠れて、実は軽い躁状態(軽躁状態)が過去にあったことに、本人も主治医も、周囲も気づいていないケースは少なくありません。
この記事では、うつ病と双極性障害の違い、見逃されやすい軽躁状態のサイン、そして「双極Ⅱ型障害」という診断概念を巡る議論まで、順を追って解説します。
- 双極性障害は、うつ状態と躁状態・軽躁状態を繰り返す病気。
- 厳密にいうと躁状態とうつ状態が同時に来る「混合状態」と言われる時期もある。
- 軽躁状態は「調子が良かっただけ」と見過ごされ、うつ病として長く治療されることがある
- 躁・軽躁状態は高揚感だけでなく、イライラ・易怒性が前面に出ることも多い
- 見分けの重要な軸は「どのくらいの期間、まとまって続いたか」
- 一方で、双極性障害の過剰診断も国際的に議論されている問題
双極性障害とは
双極性障害は、気分が落ち込む「うつ状態」と、気分が高まる「躁状態」または「軽躁状態」を繰り返す病気です。
・・・しかしこの認識、若干違います。厳密には躁状態とうつ状態が同時に来る、混合状態という状態もあります。なんなら結構長いことこれの状態の人もいます。
身体は鉛のように全然効かないのに、妙に怒りっぽくて、ずっと何かをやっていて、それでも心はずっと沈んでいる・・・・・
こんな発言も混合状態の人には見られます
多くの方はうつ状態のときに医療機関を受診するため、軽躁状態はあまり自覚されず、「うつ病」として長期間治療が続けられることがあります。うつ病そのものについては別記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
見逃されやすい軽躁状態のサイン
軽躁状態は、本人にとっては「絶好調」「治った」と感じられることが多く、問題として認識されにくいのが特徴です。過去に次のような時期がなかったか、振り返ってみてください。
- 急にお金を使いすぎていた時期がある(浪費・衝動買い)
- いつもより口数が多く、しゃべりすぎていた(多弁)
- 数日眠らなくても平気なほど元気だった(睡眠欲求の減少)
- 人が変わったように活動的で、毎日予定を入れるなど多動になった
- 妙にイライラ・怒りっぽい時期があった
「躁状態=ハッピー」だと思っていませんか
躁状態や軽躁状態というと、気分が高揚して幸福感に満ちているイメージを持たれがちですが、実際の臨床像はそれだけではありません。「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」という切迫した焦燥感や、些細なことへの易怒性(妙な怒りっぽさ)が前面に出ることも多く見られます。
気分が高まっているのに幸福感ではなくイライラが目立ち、家族や周囲に対して攻撃的・時には暴力的な言動につながってしまうこともあります。DSM-5の診断基準でも、躁・軽躁エピソードにおける易怒性や精神運動性の焦燥は、症状の一つとして扱われています。「ハイテンションで楽しそう」という一般的なイメージだけで判断すると、こうした時期を見逃してしまいます。
見分けるポイントは「期間」
うつ病と双極性障害を見分けるうえで重要な軸のひとつが、気分が変化している状態がどのくらいの期間、まとまって続いたかです。DSM-5の診断基準では、軽躁状態は4日以上、躁状態は1週間以上、普段とは明らかに異なる状態がほぼ一日中・毎日続くことが目安とされています。
その場限りの一時的な気分の浮き沈みではなく、「絶好調期」「不調期」「普通の時期」がある程度はっきり区別できるかどうかも、大切な手がかりになります。
双極Ⅱ型障害という概念について
基本的にはベースは長いことうつ状態だが、時折軽躁状態を伴う、双極Ⅱ型障害という診断概念があります。実は精神医学の中でも議論が続いている領域です。軽躁状態の判断は、明確な社会的支障を伴う躁状態やうつ状態に比べて主観的になりやすく、「調子が良かっただけの時期」を軽躁状態と評価しすぎることで、双極性障害が過剰診断されやすいという指摘が国際的になされています。
また実臨床では激しい生活環境にいる患者が、環境の変化や生活環境の変化などによって状況反応性に気分が上がったり下がったりしている場合、ADHD患者で気分の波が激しく、衝動的になりやすい特性を双極Ⅱ型と捉えられていることも多い印象です。
診断にあたっては、現在の症状だけでなく、これまでの気分の波の経過を本人・家族双方から丁寧に聴取することが重視されます。双極性障害と診断された場合の治療では、炭酸リチウム(リーマス)やバルプロ酸、ラモトリギン(ラミクタール)といった気分安定薬に加え、クエチアピン(ビプレッソ)、ルラシドン(ラツーダ)、アリピプラゾール(エビリファイ)、オランザピンといった抗精神病薬が中心的な役割を果たします。抗うつ薬自体は双極性障害のうつ状態にも効果が期待できますが、躁転のリスクがあるため、気分安定薬や抗精神病薬と組み合わせながら、慎重に使用されるのが一般的です。
見過ごせない「過剰診断」のリスク
一方で、実際の臨床では、時間単位・日単位で目まぐるしく変化する気分の波や、ADHD(注意欠如・多動症)に伴う情動の不安定さが、双極性障害と診断されてしまっているケースも指摘されています。ADHDによる気分の波は、外的な出来事への反応として時間〜日単位で揺れ動くことが多く、まとまった期間持続する双極性障害の躁・軽躁状態とは性質が異なります。
チェックリストの項目に当てはまるからといって、それだけで双極性障害と決めつけることはできません。期間・持続性・生活への影響の程度を丁寧に評価することが、正確な診断には欠かせません。
こんな時は相談を
- 抗うつ薬による治療を続けていても、気分の波が大きい時期がある
- 家族から「あの頃は元気すぎた」「人が変わったようだった」と言われたことがある
- 浪費や対人関係のトラブルにつながった時期に心当たりがある
- 今の診断や治療方針に疑問を感じている
精神科の診察では、現在の症状だけでなく、これまでの経過を丁寧に確認します。診察で実際に何を聞かれるかについては、精神科の初診で聞かれることの記事もご覧ください。
まとめ
- 双極性障害は、うつ状態と躁状態・軽躁状態を繰り返す病気
- 軽躁状態は「調子が良かっただけ」と見過ごされ、うつ病として長く治療されることがある
- 躁・軽躁状態はハッピーなだけでなく、イライラ・易怒性が目立つこともある
- 見分けの重要な軸は、気分の変化がどのくらいの期間まとまって続いたか
- 双極性障害の過剰診断も指摘されており、自己判断での決めつけは禁物
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療の代わりになるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。詳しくは免責事項をご覧ください。

